質感、規格、臨場感、文化。北原禎人の作品を読んでいると、そんな単語がよく出てきます。鏡やビデオカメラにではなく、人間が人間に見せるモノであるという前提に徹頭徹尾スティックしているからこその感覚。その感覚から錬り出され、削り出されたマジックは、それはもう飽き飽きするような「新商品」群をいとも簡単に駆逐するどう猛な力を持っています。一通り物事が分かったような気になって倦んできたころに、ああ本当に望んでいたのはこういうものだった、と胸ぐらをつかまれて引き戻される、あの感覚。
前2作をお読みの方は、そして少しでも気に入って頂けた方は、もうその感覚がおわかりのことと思います。「LEMON」ではさらに抽象度を上げた作品と論が展開されます。痛覚にダイレクトに響くもの、プロバビリティを扱ったもの、リスクを取る先にある世界。人ができる表現の可能性。
現場で行う作品として、こんな手法が存在しうる、こんなカタルシスが存在しうる、そしてそれを演じている人がいる。その存在に触れることは、あなたのなかにどんな時限爆弾を仕掛けるのでしょうか。
01_Thorndike (180 Thumb Hold) with SHUNT
02_Lingua Franca :観客が頭の中でする体験そのものを現象として抽出。メタレベルでのやりとりを演技に盛り込んだ観客への感覚喚起。
03_Esclock :制限時間内に観客と演者が好きなタイミングで押したストップウォッチの時間が一致する。簡易版とセットで解説。
04_Pablo 87 :アルミホイルで包んだサイコロを観客が振り、アルミの下に隠れているサイの出た目を演者が言い当てる。それが可能な複数の手法を解説。特殊な組み合わせの素材感から生み出されるその構造自体を使った解決法も解説。
05_Radioblood Dating :白紙の紙玉4つと2種類の異なる紙幣を持った6つの手、どれが白紙で2種類の紙幣もどちらがそれぞれを持っているか、演者はその全てを言い当てる。素材選択の「差」を保険に適用。3人の人間を強制的に「より社会化」する演出方法も解説。元になったプロトタイプ作品「Dover Sketch」も付加。
06_Seitengrat :インビジブルデックに空間と時間の概念を盛り込んで最大限にその効果を膨張させる為の演出フレーム。観客達の想像力にその存在の全てを依存した使い方、シンプルとは何かを追求した先にあった姿を提案。
07_Ambassador :観客が頭の中で完全フリーチョイスで国の国旗を考え、一切外にそれを出していない状態から演者は最終的に国名を言い当てる。国旗のデザインの裏にある盲点を使った狡猾な保険を噛ませる事によって印象を操作する方法も解説。電話での演技も可。
08_Rosanjin Principle :「盛り過ぎない」為にどんな抑制を自分が心掛けていればいいのか。現象というミクロだけではなく、演者をもっとマクロで品格管理する為のフィルターの提案。北大路魯山人の美学を基にこの文化にどうそれが機能してくるのか、という考察と理論の入り口。 |