「奇術探究」は、ゆうきとも氏を編集長としてmMLより出している、不定期刊行の冊子シリーズです。 その名の通り「マジックを、より深く探究しよう」というのが趣旨。 それにふさわしい媒体として、この映像中心の時代に、敢えて冊子の形態を採用しています。 その方が、手軽に手に取り、腰を落ち着けて研究いただけるものと信じております。
ある種、不定期刊行の雑誌にも近いのですが、作品に主眼を置いている点が雑誌とは異なります。 しかも、作品発表の場として、新作・未発表作にこだわって収録しています。 新しいマジックをお探しの方、この「奇術探究」シリーズを見逃してはいけませんよ!
さて、今回の特集テーマは「フォー・オブ・ア・カインド」。 言わずと知れた、トランプの「4枚のA」「4枚のK」など、「同じ数字の4枚」のことです。 マジックの現象に関わるくくりではなく、トランプの構成面からの切り口ということになります。 トランプとは、「マーク(スート)」を縦糸、「数字」を横糸として織られた生地のようなもの。 その横方向の切断面に現れるのが「フォー・オブ・ア・カインド」と言うことができます。 (もう一つ、次元の異なる「裏表」という概念を加えた三次元体として分析した人がいましたが…)
考えてみると、「フォー・オブ・ア・カインド」を使うカードマジックは、結構多いものです。 古くは「エースアセンブリー」をはじめとする「フォアエース」の手順あれこれ。 また、「奇術探究」第7号で特集した「コレクター」なども含まれてしまうほどの大分類項です。 「ツイスティング・ジ・エーセス」に端を発するパケットトリックの隆盛も、拍車をかけている一因でしょうか。 今回は、その幅の広さを逆手に取って、バラエティに富んだユニークな作品群を提供することができました。 「フォー・オブ・ア・カインド」という「概念」自体に、こんな使い道があったのか… そう思わせるような「変な作品」(問題作?)も収録しています(「4と9」参照)。
詳しくは下記、個別の作品紹介をご参照いただきたいのですが… 今回の注目点として、冊子内にさらに「ミニ特集」が含まれているような形になっています。 最初の3つのトリックが、「はまぐり」という作品から連鎖的に派生したシリーズ連作になっているのです。 1つの作品が、タイプの異なるマジシャンの手を経て様々に変遷していく過程が見られます。 非常に興味深い内容ですので、ぜひ、じっくりとご探究いただければと思います。
どんな内容?
■蜃気楼 〜「はまぐり」のバリエーション〜(佐藤 喜義)
4枚のエースの表が1枚ずつ裏模様になり、4枚とも両面が「裏面」のカードができ上がります。 しかし、おまじないをかけると、今度は4枚の「表」が真っ白になります。 最後にもう一度おまじないをかけると、再び4枚のエースに戻ります。
今回「The Amazing Sally(アメージングサリー)」の佐藤喜義氏が「探究」初寄稿。 フィル・ゴールドスティン氏の「はまぐり」(Back Ordered、別名「表と裏」)に基づくバリエーション作品です。 原案で使われていなかった面を活かして鮮やかな現象を加え、よりパフォーマンスバリューの高いトリックに仕上げました。 あの「タウンゼンド・オペックカウント」も紹介・説明しています。 解説は佐藤大輔。
■シジミ(江花 嵩幹)
4枚のエースのフェイスが1枚ずつ消えていきますが、最後に一瞬で4枚とも元に戻ります。
上記、佐藤喜義氏の「蜃気楼」に基づくバリエーション作品。 しかし、バリエーションというよりも、別作品と言った方が適切でしょう。 ひょんなことから「原案」とは違う現象となり、よりシンプルな形となりました。 江花嵩幹(えはな・たかもと)氏も本誌初参加です。
■シジミのレシピ(ゆうきとも)
上記、江花氏の「シジミ」のハンドリングを高く評価したゆうきとも氏が、その応用手順を構築。 フォアエースと4枚のブランクカードを使った「リセット」的な現象に仕立て上げました。 「カラーチェンジ」のバリエーション・ハンドリングも必見、要チェックです。
■フォーアヘッド・オープナー(野島 伸幸)
2枚のジョーカーの間から順に1枚ずつエースが現れていき…最後の4枚目は意外な形で出現します。
自身の作品「スリーアヘッド・オープナー」(DVDIdea Collection〈アイデア・コレクション〉収録)のセルフ・バリエーション。 ゆうきとも氏とのディスカッションを経て構成されたものです。 両者を比較されると面白いと思います。 最後はフォアエースのみが残るので、オープナーとしては最適。 現象的にも意外性がある好作品です(荒井晋一氏などに先例がある現象ですが)。
■フォーカードカーニバル(野島 伸幸)
16枚のカードを、観客の意思によって4つの山に配り分けます。 それぞれの山の表を見ると、全てフォー・オブ・ア・カインド(同数字の4枚)に分かれています。
「セルフワーキング・トリック」です。 誰でも簡単に行えて、結構派手な現象が起こりますので、とても実用的です。
■ツイスティング・ジ・エーセスに関する演出のアイデア(ゆうきとも)
ゆうきとも氏があたためていた「ツイスティング・ジ・エーセス」関連のアイデアを大放出。 一連の手順としてご紹介いたします。 楽しく演出するためのギャグや、また現象を分かりやすく提示するためのアイデアなど。 あなたの「ツイスティング・ジ・エーセス」が、これで変わります。
■ツイストレンジャーS(南部 信昭)
デックから4枚のカードを取り上げ、そのパケットで「ツイスト現象」を起こしていきます。 裏向きのパケットの中で、ハートの4・3・2・Aが順に表向きになっていきます。 最終的にエースが表向きになったところで、残りの3枚を表向きにすると… 全てエースのカードになっていて、フォーエースが揃います。
「縦糸と横糸」の概念を交錯させることで、全く異なった「もの」に変化したように見せる… 「マキシ・ツイスト」に似た、ツイスト現象に変化のクライマックスという展開です。 ハンドリング的にもユニークな手法が使われていますので、ご研究ください。
■4と9(南部 信昭)
マジシャンは、7枚のカードを裏向きに横一列に並べます。 右から4枚を取り上げて示すと、4枚の4です。 並べ直して、今度は左から4枚を取り上げて示すと、4枚の9です。 奇妙なことに、真ん中の1枚は「4でも9でもある」ということになりますが…はたして、その正体は?
奇妙な味のある、おかしなトリック。 「基本手順」に加え、カードが立て続けに分裂・変化する「発展手順」も収録しています。
こんな方にオススメ!
独特の切り口による、独自性の高いユニークな内容に仕上がりました。 カードマジックがお好きな方は、ぜひご探究いただきたいと思います。
セット内容
・冊子:1冊(日本語。B5判・正味32ページ:表紙除く。図版多数。)
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